代表理事 巻頭言 「薬剤師を巡る情勢」
薬剤師を巡る情勢
一般社団法人昭薬同窓会代表理事
古泉 秀夫(D−11A 昭和38年卒)
国家公務員として採用される6年制最初の薬剤師の初任給について、人事院は医療職(二)2級15俸に格付けし200,800円と決定した。高いか安いかは別として、4卒の初任給は医療職(二)2級1号俸178,200円で、4年+2年の評価が、プラス3.5年分と云うことである。評価の正当性については、軽々に判断できないが、国立病院療養所等の独立行政法人化で国家公務員の薬剤師数は限りなく減少し、人事院勧告の恩恵を受けることの出来る薬剤師は、130人程度だと云われている。また政府は、2011年度の人事院勧告(国家公務員給与の0.23%引き下げ)の実施と共に、平均7.8%の政治的削減をするための臨時特例法の成立を優先させる方針を固めたされている。
病院関係者の賃金体系は、人勧準拠という施設が比較的多い。人事院勧告が出され、それに倣って賃金体系を決めるというやり方である。それから云えば、人事院が6年制薬剤師の初任給を決めたことは、医療機関における一つの基準として相場決定の上で重要な役割を果たすことになる。但し一方で、消費税増税のための口実として、2011年度切り下げ勧告の範囲を超えて、政府は公務員給与の更なる切り下げをすると云っている。従来の慣行から云えば、公務員給与の切り下げは、そっくりそのまま民間病院の賃金に跳ね返ってくるということになる。
更に今年の春闘に関連して経団連は、2012年春闘で経営側の姿勢を示す“経営労働政策委員会報告(経労委報告)”を発表したが、東日本大震災による打撃、急激な円高による企業の経営環境の悪化等を理由として、定期昇給(定昇)の廃止・縮小やベースダウンを提案したとされる。これは2004年以来の厳しい内容だと云われている。定昇についても「負担が重い企業では、延期・凍結も含め、厳しい交渉を行わざるを得ない」とし、ベースアップについて、実施は論外であるとしている[読売新聞、第48832号、2012.1.24.]。
このような環境を考えると、民間が公務員並みの賃金単価を叩き出せるかどうかについて、先行きの展望は見えてこない。景気後退の中、医療機関の賃金相場として気楽に公務員並みの単価が出せるのかどうか。我が国の医療経営が、公的医療保険という統制経済の下で運営されているのは御存知の通りである。現在中医協において診療報酬の改定論議がされているが、日本医師会等が期待する改定はされない方向性が示されている。当然医療機関における今春闘において、職員の給与が大幅に上昇するという環境は期待できない。
これらの状況を考えると、6年制薬剤師の新卒者を迎える環境は甚だよろしくない。特に経済的な環境は過酷だといえるほどである。最初の卒業生の初任給が正当に評価されなければ、以後は低い評価から脱却できない状態が長く続くことになる。今回6年制卒の薬剤師が初めて世の中に巣立ってくる。本来なら記念すべき年であり、御祝儀相場を立てて貰いたいところであるが、果たしてどうか。薬剤師の地位向上を訴える薬剤師の立場を考えた場合、訴える側の薬剤師が経営する調剤薬局等で採用する場合、英断を持って人事院勧告並みの初任給を払って貰いたいと思うのである。
ところで厚生労働省の報告によると、覆面調査の結果“第1類医薬品”の販売時、薬剤師が文書を利用して購入者に説明することになっているにも拘わらず、実施率が甚だ低いという結果が出たという。確か調査は2回目で、最初の時もあまり芳しい結果は出なかったと記憶している。薬剤師が薬剤師としてやるべき仕事をするのが基本であり、新卒者を受け入れながらいい加減な仕事をしていたのでは、先輩の名が廃るというものである。