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新しい年を迎えて:新興感染症とどう向き合うか

 同窓生の皆さま、明けましておめでとうございます。昨年のこの時期には予想もしていなかった感染症のため、我々の社会生活は大きく様変わりしており、何らかの自己制御が必要な日々と推察致しております。当初は多くの専門家が数ヶ月で先が見えると予想しておりましたが、その感染様式が明らかになるにつれて長引くと予想する人々も増えてまいりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の最大の特徴は無症状のままウイルス粒子を排出し拡散することで、その結果、血管系疾患を有する人を中心に重症化させます。幸いワクチン投与が早ければ今春から開始される見通しとなっているようですので、1つの節目を迎えたということになります。国産ワクチンの開発もアンジェスや塩野義製薬を中心に進んでおり、期待されています。ワクチンの有効性についてはもう少しエビデンスを積み重ねる必要がありそうですが、その一連の騒ぎの中で興味を引いたのは超低温冷蔵庫という言葉です。細胞や微生物を扱う生物系の研究室では当たり前になっているdeep freezer であり、通常は-80℃であり、単に「レブコ」と呼ばれることも多い。今春から供給開始予定のワクチンは米国ファイザーと独ビオンテックが共同開発したRNAワクチンで-70℃での保管が要求されています。そのために厚労省が中心となり、超低温槽を一万台準備するということをニュースで聞きました。研究室で使う試薬の中には超低温保存のものもあり、保管や運搬に業者も苦労していると聞いていたので、コロナ騒ぎのあとの転用もありうると希望的観測をしています。国産ワクチンのうちアンジェスのものはDNAワクチンであり、超低温槽は必要でありません。これは新型コロナウイルスのスパイクタンパクの遺伝情報をDNAに載せて、生体内で発現させるという方法です。しかも効率の良い針を使わない投与方法も検討しているということで早期の認可を期待しています。アンジェスを応援しているのには国産ワクチン開発の先頭に立っているということ以外に個人的理由もあります。大学院(博士課程)時代の1年後輩であり、同門の山田英(えい)氏が同社の代表取締役を務めているからです。「がんばれがんばれ英ちゃん」と心の中で叫んでいます。

 ワクチンへの期待は①感染予防 ②感染時の重症化軽減 ③発症者の症状の改善などが考えられます。ワクチンによっては効果が異なることが考えられ、複数のワクチンが供給されることが望まれます。今回のコロナ禍騒動で、世界的にはワクチンや治療薬の開発が飛躍的に早まったと言われています。我が国でも同様の傾向が見られることを期待しています。

 専門家の中には今回のコロナ禍は準備体操のようなもので、世界各国での感染症対策に必要な体制や設備等をあぶり出してくれており、さらなる脅威を有する新興感染症に備えよと警告を発している方々もおられます。今回のコロナウイルス感染症での死亡率は本邦で約1.4%、世界全体で2.2%となっており、この数字だけを見るとエボラや新型(H5N1・H7N7)鳥インフルエンザの死亡率30〜60%にはるかに及ばないことになります。死亡率の多寡はともかく、新興感染症対策は長い目で見れば公衆衛生学的教育の必要性の一言に尽きると思われます。1つは感染症に興味を持ってもらうこと。今1つは専門家の言葉を正しく理解できるための基礎知識を身につけてもらうことです。同窓生の方々の中には学校薬剤師を務めていらっしゃる方も多いと思われます。是非、若い方々に公衆衛生の基礎知識を伝授してあげて下さい。10年後、20年後には必ず役立ちますので。

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