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会員より

「ご支援ありがとうございます」

村井 玲 【D-16 昭和43年卒】

3月11日午後2時46分に発生したM9の地震は、千年に一度と言われる津波を引き起こし、死者行方不明20,364名という未曽有の悲劇をもたらしました。さらに福島第一原発の事故が重なって収束の日は未だ見えていません。

私は岩手県内陸部に住んでおりますので、家中に物が散乱したり、停電やガソリン不足といった程度で被害はごく軽微でした。しかし、三陸沿岸の被害が日に日に明らかになると声にならない深い悲しみが胸の中に広がっていきました。心配な友人や知人が沢山居ます、でも安否がわかりません。

3月下旬、県薬剤師会からボランティア出動の要請がきました。釜石港に水産庁のかちどき丸499tがOTC薬を積んでくるので、受領立会をするようにとのことです。船は大量の医薬品やミルク、紙おむつ、マスク等の支援物資を運んできてくれました。 感謝。

その後、沿岸市町村の会員薬局を訪ね歩き、会えた薬剤師からは要望を聴いてまわりました。津波が3階まできて全壊した薬局、昨年電算化した調剤機器が津波をかぶって使えなくなり再開のために二重ローンを申し込んだ薬局、床上1mまで浸水したのに「私は幸運だった」と難を逃れたOTC薬を避難所に無料提供している薬局。

4月に入って「何かお役にたてることはないかしら」という昭薬時代の友人の言葉に甘えて、内陸の温泉宿へ避難している数百名の被災者の要望を伝えました。履物、下着、ジャージ上下、合羽、子供用の衣服や靴等々。なにしろ裸足で津波から逃げたのでスリッパで雪道を歩いている方も居たのです。早速新品の品々がいくつものダンボールで送られてきました。到着したその日のうちに町役場を通して被災者にお届けし、「助かりました」との言葉をいただきました。昭薬の友人達の心意気には町役場職員も感激し、遠方から送ってくれたと今も話題になっています。

県薬剤師会では、支援物資のOTC薬を組み合わせて常備薬セットを作り、県内の避難所へ配布することにしました。被災した沿岸市町村まで往復6時間、その配送がボランティア薬剤師の仕事になりました。瓦礫の山が続く荒涼たる被災地ではカーナビも無力で、社会福祉協議会にお願いして帰ることもたびたびでした。そんななかで「大船渡市は”くすりのタカギ”さんが頑張ってくれている」という話が聞こえてきました。昭薬同窓生の高木久子さん(D-18)です。彼女は危うく難を逃れた直後から避難所や在宅被災者をお世話し、そのなかで若い女性の下着がかなり不足していると聞いて自店のホームページで窮状を訴えたそうです。

たちまち全国から寄せられたそれらの品々を薬局2階に並べて皆様に提供しているということでした。もちろん常備薬セットの配布も積極的にかって出てくれました。後に彼女を訪ねたところ、「黙っていられない性分なので、当然のことをしたまで。私がしたことなんてたいしたことないのよ」と、とても謙虚でした。

6月は宮古市田老の仮設診療所で調剤ボランティアを行いました。5月まで北海道薬剤師会の方々が支援してくださった診療所です。ここで私は衝撃的な場面に遭遇しました。70代後半の老人が怒鳴っているのです。「お前なんかにわかるか、一生かけてつくってきたものがたった30分で無くなったんだ、たった30分だぞ。カカアも息子も、もう居ねえ。」今も、耳に残っています。

7月、自衛隊が次々にひきあげていきました。「本当にお世話になった、有難かったなぁ」「良い若者ばっかりだった、あの人たちには人殺しさせたくないよなぁ」沿道で手を振りながら話していた被災者の方々の声も忘れられません。

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