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旧・会長短信

【76号】調剤過誤 1.

薬剤師として、考えられない調剤過誤が発生した。

薬剤師が調剤過誤に気付いた段階で、まず最初にしなければならないのは、患者に実害を及ぼさないための手立てである。しかし、今回発生した調剤過誤は、業界紙の報道を見る限り、考えられない転回を見せている。

埼玉県警は19日(2011.8.)小嶋富雄氏(小嶋薬局社長(76歳・越谷市)と「小嶋薬局本店サンセーヌ薬局」の女性管理薬剤師(65歳)1人を、調剤過誤により女性(75歳)を死亡させたとして、それぞれ業務上過失傷害容疑、業務上過失致死容疑でさいたま地検に書類送検した。

県警と県薬務課によると、送検容疑内容は、平成10年3月25日、春日部市在住の無職女性(当時75歳)に対し、小嶋社長が胃酸中和剤を調剤しなければならないところをコリンエステラーゼ阻害薬を自動錠剤分包機で調剤し、鑑査もせずに交付した。

本来なら制酸便秘剤「マグミット錠250mg」(一般名:酸化マグネシウム)を出すはずが、重症筋無力症の治療に使うコリンエステラーゼ阻害薬「ウブレチド錠5mg」(ジスチグミン臭化物)を誤って渡した。同剤は毒薬指定され、重大な副作用の懸念があるため、高齢者には「慎重投与」となっている。女性患者は、臭化ジスチグミン中毒に陥り、4月7日に入院先の病院で死亡した。

社長は薬局開設者として誤調剤を防止する業務上の注意義務があるのにこれを怠り、誤調剤で女性患者に全治不詳の臭化ジスチグミン中毒という『傷害』を負わせた疑い。女性管理薬剤師は、4月1日に分包機の「補充ランプ」点灯で異変に気付いた部下の薬剤師から、誤調剤の事実報告を受けたにも拘わらず、服薬中止の指示や薬剤の回収をせず放置したため、結果としてその女性を4月7日に死亡させたとの管理責任を問われた。女性管理薬剤師は、部下の薬剤師から誤投薬の指摘を受けたにも係わらず、経営者に叱責されるのを嫌い、報告も回収もしなかったという。

県警からの情報提供で、春日部保健所は4月13日に立入り検査を実施、社長から事情を聴取。業務改善を求めた。2月20日4月1日までの35営業日で死亡した患者を含む23人に計2,970錠を誤調剤していたことが発覚した。22人からは残った薬を回収し、健康被害の訴えも出ていない。同薬局は、分包機の薬品マスターに登録する際、マグミット錠とウブレチド錠を「同じ番号」に設定してしまったためミスが発生したと報告した。

ここで最大の問題は、『鑑査』抜きで、調剤済みの薬を患者に渡してしまったことである。例え薬剤師が一人で仕事をしていたとしても、『調剤鑑査』は必要な業務であり、ないがしろにしてはならない。更に問題なのは、調剤過誤に気付いた時点で、直ちに今迄の処方箋を調査し、誤調剤のある処方から患者の住所を探し、お詫びと説明、薬の回収に向かわなかったことである。

調剤というのは細かな作業の連続である。調剤していて間違えたことのない薬剤師がいたらお目に掛かりたい。仕事をすればするほど、間違いは発生する。その防止をするための最大のポイントは、正確な調剤をするための個々の薬剤しての努力と、『鑑査』なのである。充填ミスを避けるためにも、充填時の鑑査が必要なのである。

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