「在宅訪問の現場から」

2011/08/02会員より

中村 美喜子 【D-30B 昭和57年卒】

大学を卒業し、薬剤師となって今年でちょうど30年を迎えました。この節目の時に、同窓会会報への依頼をいただきましたこと、心から光栄に存じます。

今年3月の東日本大震災で被災された方々に心よりお見舞いを申し上げるとともに、救援にご尽力された同窓生の皆様に深く敬意を表します。

私は現在、長崎市内で開局しており、開業18年になりました。長崎港を中心にすり鉢状に広がる斜面地区に位置しており、調剤に加えてOTC、生活雑貨を取り扱う、いわゆる地域密着型の薬局です。まだ在宅に取り組む薬局が少なかった4年ほど前、仲間の誘いで「長崎薬剤師在宅医療研究会(通称P-ネット)」の発足に参加しました。以来、少しずつ在宅訪問依頼が増え、今では常時13~15名ほどの在宅患者さんを訪問する日々を送っております。

大学時代はワンダーフォーゲル部に在籍して山登りも経験したとはいえ、よもや30年もたってから、輸液や経腸栄養剤を抱えて長崎の坂道や階段を登ることになろうとは、思いもよらないことでした。

長崎市では、平成15年に、開業医を中心に複数の医師が連携して在宅訪問診療や往診を行うシステム「長崎在宅Dr.ネット」が発足し、すでに実績を積んでおりました。医師が訪問薬剤管理指導の依頼をする際の受け皿となるべく、「P-ネット」は結成されました。開局薬剤師・病院薬剤師など39名(平成23年8月現在)で構成され、毎月の研修会で在宅業務について学ぶとともに、メーリングリストなどを活用して、医師からの訪問依頼を受付、担当薬剤師を決定し、同時にサポーター薬剤師を募っています。

また普段は会員間での情報交換を行っており、実際の症例に関して薬学的な考察を求めたり、介護保険の請求に関する質疑応答、さらにピンチヒッターとして訪問をお願いしたりと、その内容は多岐に渡ります。協力しあえる仲間を得られたことは、大きな力になっています。

私たちが大学で学んでいた頃は、「クリニカルファーマシー」という言葉は耳に新しく、臨床的なことよりも薬そのものに関する勉強がほとんどであったように思います。薬剤師となって、OTC販売業務と調剤業務をやってきた私にとって、在宅業務に携わったことはこれまでの意識を大きく変えるものでした。特に、緩和ケアの領域はほとんど経験がなく、研修を重ねることとなりました。時を同じくして、厚生労働科学研究事業である「がん対策のための戦略研究 緩和ケア普及のための地域プロジェクト(OPTIM)」の実施対象地域に長崎市が選ばれ、コメディカルに対しても緩和ケアに関する研修会やサポート事業が次々に行われるという、なんともラッキーな環境となりました。少しずつ実績を積みながら、研修会で緩和ケアの知識を学び、さらに医師や看護師、ケアマネなど多職種との連携を深めていくことができるようになったと感じています。

入院加療というのは、患者さんを取り巻く環境をほぼ一定にして、病気の治療に専念するものと考えられると思いますが、自宅もしくは施設での療養は、その環境が千差万別です。加えて、患者さん本人の性格や嗜好、ADLの違い、介護者、キーパーソンなど様々な要因が関連します。最も優先すべきことは「患者本人が何を望むか」です。たとえば、「住み慣れた我が家で、できる限り一人で生活したい」という風に。我々スタッフはそれを叶えるべく働くのです。

ある在宅研修会で、「医師は診る、看護師は看る、薬剤師は視る」という言葉を学びました。”薬剤師としての視点”が大切だということです。目や手が不自由な方でも服用しやすいように工夫をしたり、投与形態や経路に問題があれば、剤形の変更や簡易懸濁法などの提案を行います。起こっている事象が、薬による副作用や相互作用によるものではないかを検討し、医師に処方変更などの提案を行うことで、本人はもとより介護者の負担を軽くし、自宅での療養をゆとりのあるものにすることができると考えています。この、薬剤師にしかできないサポートをすることが、現在の私の生きがいになっていると言っても過言ではないかもしれません。

これまで薬局のお客さんや患者さんに関わってきた経験を活かし、仲間たちの力を借りながら、在宅で療養する方たちがより快適な生活をし、周りへの感謝とともに幸せな気持ちを手に入れてくれることを願って、日々坂道と階段を巡ろうと思います。

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